運用を丸投げして金儲け…広がる「ヤミ民泊」の実態に迫る – livedoor



 一般の住宅に人を泊める「民泊」。都道府県への届け出などのルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が来春にも施行されます。しかし、民泊は法整備を待たずに広まっています。すでに全国で5万件以上あり、このほとんどが違法な「ヤミ民泊」だとされています。東京や大阪などの都市部ではマンションの一室をオーナーや管理会社に無断で使う例が多く、ネット上では「自分のマンションもヤミ民泊に『感染』しているようだ」などと不安の声が出ています。ヤミ民泊とは一体誰が運営していて、何が問題なのでしょうか。「ほとんどが金もうけ目的」と話す人もいる、その実態を探りました。(朝日新聞経済部・森田岳穂記者)

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ポストの中にカギが

 6月下旬、民泊仲介サイトのAirbnb(エアビーアンドビー)を使い、東京・渋谷のマンションの一室を取材目的で予約しました。宿泊代は1泊7400円。Airbnbには「サービス料」として2千円が取られます。

 宿泊当日は貸主からメッセージで送られてきた住所をたよりに、スクランブル交差点から10分ほど歩き、13階建てのマンションにつきました。エントランスは全面ガラス張りで、打ちっ放しのコンクリートが外壁に使われているなど、しゃれたデザイナーズマンションのような雰囲気です。

 エントランスはオートロックで入れないため、貸主から指示された通り、マンションの外側から郵便ポストの投函口に手を突っ込みます。指に触れたワイヤをたぐり寄せると、南京錠と部屋のカギが取り付けられていました。メッセージで送られてきた4桁の暗証番号に合わせて南京錠から部屋のカギを取り外し、カギを使ってオートロックを解除しました。

 一度暗証番号を知ってしまえば、悪用しようと思えばできてしまう状況です。このマンションではないですが、宿泊客がいない間にカギを使って無断で中に入られ、家電製品が盗まれたり、無断で宿泊されたりといったトラブルがSNS上では報告されています。

あちこちに「民泊禁止」の貼り紙

 エレベーターホールに入ると、英語や中国語など4カ国語で書かれた「民泊禁止」の貼り紙が目に飛び込んできました。マンションの管理会社に確認すると、全ての部屋で民泊などを含む又貸しなどは契約上、禁止されているそうです。

 民泊新法がまだ施行されていない現在でも、大阪市や東京都大田区など、国が地域を限って規制を緩和する国家戦略特区で認定を受けるか、旅館業法上の許可を得れば民泊を営めます。しかし、渋谷区に確認すると、渋谷区では旅館業法上の許可を出した民泊はないといい、違法なヤミ民泊だとわかりました。

 11階の部屋に入ると、約40平方メートルほどの1LDKでした。部屋自体はおしゃれなデザイナーズマンションという雰囲気ですが、床には髪の毛が落ち、黒い壁には手あかのようなものが目立ち、あまり清潔感はありません。タオルは少しかび臭かったです。クローゼットの中には誰のものなのか、靴が一足置いてありました。

 宿泊代7400円の他に「清掃代」として別に8千円ほどを支払っていたのですが、プロが掃除したとは思えませんでした。隣の部屋は一般の住居として使われています。人の部屋に勝手に入ったような居心地の悪さがありました。

 ちなみに、宿泊代金が割高に思えますが、清掃代はチェックアウト時の1回のみ支払えばよく、複数人で連泊すると、周辺のホテルより割安になります。

誰が運営しているのか

 こうしたヤミ民泊は誰がどのように運用しているのでしょうか。記者が泊まった物件の貸主である「ホスト」は若い女性の写真でした。この女性に宿泊後にメッセージで取材を申し込みましたが断られました。

 そこで、違法なヤミ民泊を運用している3人の男性や、ヤミ民泊の管理を代行している業者に話を聞きました。その人たちの話によると、ヤミ民泊の多くは、分譲マンションや賃貸マンションの一室を使っています。部屋の清掃や、仲介サイト上でのメッセージのやりとりなどは専門の業者がおり、代行を依頼しているということです。

 SNSで学生や主婦を募って掃除させる清掃業者もいるそうです。若い女性の写真を使うと稼働率が高くなる例もあるといい、実際の貸主とは全く関係ない人の写真を無断で使っている業者もいるそうです。ヤミ民泊を運営する男性は「旅行者とふれあったり日本を紹介したりしている人は本当にごく一握り。ほとんどの人は金もうけが目的で、運用やトラブル対応などは代行会社に丸投げしている」と話します。

50〜100戸が「感染」

 次に訪ねたのは東京・代々木の800戸もある大規模なマンション。一時期は50〜100部屋がヤミ民泊に使われていた疑いがあり、民泊代行業者らの間では有名なマンションです。

 このマンションの住人らによると、2〜3年前頃から大きなスーツケースを持った外国人の出入りが多くなったそうです。深夜の騒音を巡る住民からの苦情や、ゴミ出しのマナーを巡るトラブルなどが相次ぎ、マンションの管理組合は昨年4月に規約で民泊を禁止しました。

 しかし、6月下旬にヤミ民泊の情報を受け付けるサイト「民泊ポリス」の協力を得て調べると、少なくとも5部屋の民泊がAirbnbに掲載されていました。現地を訪れると、スーツケースと観光ガイドを手にした家族連れのアジア系外国人が出てきたので、記者だと名乗ったうえでどこに泊まっているのか尋ねると、「何の目的でそんなこと聞く?友達のところに来ただけだ」と言い残して険しい顔で立ち去りました。

 入り口には「民泊禁止」の貼り紙。マンションの管理人は「最近は『友達のところに来ただけだ』と言う外国人が増えた。ヤミ民泊の部屋数はかなり減ったようだが、住民の不安は消えていません」とため息をつきます。

 ある民泊管理代行業者によると、民泊で泊まっているとばれないように、何か聞かれた時は「友達の部屋に遊びに来た」と答えるように指示したり、通報を受けた保健所が来た時に備えた対応の仕方を教える「保健所マニュアル」を部屋に備え付けたりしているオーナーや代行業者もいるそうです。

ヤミ民泊は「もうかる」

 なぜこうした違法民泊が広がったのでしょうか。新宿を中心にヤミ民泊を営む男性は「儲かるからだ」と話します。この男性、一時期は10部屋を貸し出し、月に100万〜200万円を稼いだこともあるといいます。当時は金融機関に勤める会社員。もちろん勤務先には内緒で、税金も納めていなかったといいます。

 ただ、部屋数が増えるにつれて稼働率が少しずつ落ち、以前のようには儲からなくなっているそうです。この男性は「大手が入れないグレーゾーンだからこそうまみのあった商売で、合法化されてしまえば厳しい。ヤミ民泊のほとんどは金もうけが第一の目的なので、新法ができればやめる人も増えると思う」と話します。

 民泊を投資対象として高い収益を上げるための方法を指南するセミナーも各地で開催されています。「とにかく一部屋の収容人数を増やすことが収益を上げるには大事。9平方メートルの部屋でも専門の内装業者に頼めば3人はいける」などと、「おもてなし」とはほど遠いアドバイスをする講師もおり、もうけを何よりも重視する姿勢には取材をしていて疑問を感じました。

ヤミ民泊を掲載する仲介サイト

 Airbnbは、法整備のめどがつく前から違法状態の民泊を掲載し続けています。昨年ののべ利用者数は370万人を超えました。同社日本法人によると、掲載時に旅館業法上の許可があるかどうかや、民泊が禁止されたマンションかどうかは確認していないといいます。また、民泊の詳細な場所や部屋番号などは予約しないとわからないようになっており、通報を受けた自治体が調査する際の壁になってきました。

 東京都内の特別区の保健所でヤミ民泊への苦情対応をしている担当者は「特定できて貸主に接触できたとしても『友達を泊めているだけだ』などと言い逃れされるのが現状。今は立ち入り権限もなく手が出せない」と嘆きます。

 同社日本法人は「詳細な場所を表示しないのは、予約者と利用者の間の予約を巡るトラブルなどを防ぐため」だと説明しています。一方で、旅館業法上の許可を得るか、国家戦略特区で認められたものなど合法な民泊のみを掲載している仲介サイトもあります。

ヤミ民泊はなくなるのか?

 民泊新法が施行されると、民泊をするには都道府県などに届け出なければいけなくなります。今までは何もルールがない状態でしたが、周囲に民泊とわかるように表示するなどのルールを守ることが求められ、都道府県が監督できるようになります。仲介サイトも観光庁への登録が義務づけられ、届け出がされていないヤミ民泊は掲載できなくなる方向です。

 旅館やホテルなどは、住居しか建てられない地域では営めませんが、住居を使う民泊は原則どこでも営めることが特徴です。ただし、都道府県などが独自の条例で営業日数の上限を180日よりも短くすることが認められており、検討を開始する自治体が相次いでいます。

 各地の分譲マンションでは住環境の悪化や資産価値の低下を懸念して管理規約を変えて民泊を禁止する動きも相次いでいます。観光庁は規約で禁止されている場合は届け出を受け付けない方針で、こうしたマンションでは民泊が営めなくなります。新法ができたからと言って、どこでも民泊ができるようになるわけではありません。民泊自体は、現地の文化を体験できたり、ホテルや旅館よりも安く泊まれたりすることなどから訪日外国人客に人気で、世界で広がっています。東京五輪のある2020年までに訪日外国人4千万人を目指す政府も、ホテル不足の対策になると期待しています。

 しかし、今は何のルールもないまま、質もバラバラで違法なヤミ民泊が広がっているのが現状です。特区で営まれている民泊はルールを守っており、苦情もほとんどないといいますが、ヤミ民泊に対する苦情は全国で増加しており、対応する自治体も頭を悩ませています。

 利用者からも「民泊禁止と貼り紙がされていて、歓迎されていないのだと不愉快だった」「ゴミや異臭がすごく、最悪な経験だった」などの感想も出ています。新法の施行を機にヤミ民泊が一掃され、健全な状態にならないと、「おもてなし」を期待して日本に来た外国人観光客をがっかりさせてしまいかねません。ヤミ民泊でもうけてきた貸主や、ヤミ民泊を掲載してきた仲介サイト、監督権限を与えられる行政は健全な民泊の普及に向けて重い責任を負っています。



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